収蔵品データベース

女役者粂八おんなやくしゃくめはち

昭和29年(1954)

紙本墨画淡彩・額

88.8×55.3 ㎝

右下隅に「市川粂八 一九五四 三 七稿 三 八訂」、右上に「清方」とあります。「藍地に白く中形で蝙蝠の抜いてある、その浴衣にも白粉の汚れが襟に目立つのを着て、羽二重をかけたままで客に接する粂八の楽屋姿を、何度も逢つてゐるその人の印象の内、とりわけ私の瞼のなかに、どういふわけか一番深く残されている」と清方は述べています。下絵には画面左に衣桁と蝙蝠柄の浴衣が描かれているものと、蝙蝠柄の浴衣を身につけ、衣桁を秋海棠の花に置き換えたものとがありますが、いずれも顔の造作に苦心の跡が感じられ、本画では、環境描写を徹底的に削ぎ落とすことで、逆に、楽屋姿の粂八の人となりを効果的に表現しています。本作は、清方が文化勲章を受章し、鎌倉雪ノ下に新居を構えた年に制作された、肖像画の隠れた名作です。